『後藤は思う』 Vol.6 2008年10月
債権の証券化と大数の法則(Law of large numbers)
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 サブプライムに発して世界では大恐慌の再来かとの懸念も駆け巡っている。その震源のサブプライム・ローンの証券化にあたり、「証券化により大数の法則が働きリスクは分散される」みたいなことが言われていた。
本当なら、こんな問題は発生しなかったはずである。

 そもそも大数の法則って何、と思われる方の方が多いであろう。
これは、もともとは保険が成り立つための理論である。語弊を恐れず簡略化すると、「同じリスクのものが多く集まれば(大数)、リスクを分散できるので、コストは平準化される」ということである。
 分かりやすく解説すると、例えば火災保険を考えてみよう。2千万円の木造家屋が平均して年1000軒に1軒燃えるとしよう。1000人の所有者が年間1人2万円づつ負担すれば(これが保険原価、他に経費がかかるが)、万が一に対処できることになる。 つまり、火災が起きれば2000万円の損失で立ち直れないかもしれないが、毎年、原価2万円のコストで安心が買えるのである。

 しかし、同じリスクのものが多く集まってもリスクが分散されない、即ち大数の法則が働かない場合がある。同じく火災の場合でも,地震による火災・倒壊リスクである。 近々、関東大震災が来れば数十万軒が被災する可能性がある。
 だからこそ、損保会社は地震火災を免責にしているのである。けしからんのではなく、発生したら支払い不可能なものを引き受けること自体、詐欺的であり免責は当然であろう。
 それでは、民生安定にはどうしたらよいか。ここで天才政治家田中角栄は国が財政出動する家計地震保険を昭和40年代につくったのである。いったん巨大地震が発生すれば法律に基づき数兆円(最近の金額は調べればすぐわかるが)の財政出動が法律で規定されており、それに従い迅速に対処が可能なのである。もっとも彼は若い頃、保険業界誌の記者もしていたようで、昭和39年の新潟地震を契機にして作ったのであるが。
 保険料率と許認可の関係も証券化にも関連する問題が多々含まれているが、ここでは省略する。

 ところで、サブプライムというか家計ローンの証券化には大数の法則は働くのか。例えば、たまたま病気によりフロリダあたりで失業する人や、カリフォルニアで失業する人が散発的に出てきて返済不能となるというようなリスクには機能するかもしれない。しかし、不景気による大量失業や鳥インフルエンザの猛威などによる失業等による大量の返済不能発生の場合には機能しそうもない。家計ローンの証券化では大数の法則が働かない場合のリスクをどうするかが抜けているように思われる。
 もっとも、サブプライムは返せそうもない人に貸し込むというモラル・ハザードが指摘されている。大数の法則以前の問題である。
 モラル・ハザードは実は2つある。ひとつはMoral(道徳的)ハザードで、返せない人に貸し込んで債権を売り払ってしまい手数料を稼ぐというのは詐欺同然で、サブプライムは正にこれに近いのであろう。もうひとつはMorale(士気)ハザードで、どうせ自分にはリスクがすくないので、適当に審査しておけばよい、といういい加減な態度をもたらすことである。
ローンの証券化は常にこのMorale Hazardをはらんでいるように思う。

 少し前に、銀行で証券を売っていた友人に不動産債権の証券化は詐欺的であるというたぐいのことを雑談の中で言ったら猛然と反発された。しかし、私が詐欺的といったのはリスクが反映されていないということが理由である(大数の法則とは無関係)。
具体的には、日本の土地のかなりは汚染されている。工場などでは汚染がないほうが稀なのは知る人ぞ知る、である。土壌汚染対策法で縛られている土地は限られており、不動産債権には土壌汚染が反映されているとは思えないからである。まさに、morale hazardと思う次第である。
 債権の証券化が重要な金融技術とするならば、リスクの開示をどうするかが最初に議論されるべきものと思う。

後藤敏彦
環境監査研究会代表幹事
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