書評: 『温暖化防止のために,一科学者からアル・ゴア氏への提言』
      清水浩著,ランダムハウス講談社刊
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  本書は,太陽電池,リチウムイオン電池,電気自動車,及び水素をエネルギー源とする製鉄の4つを行えば,95%以上の炭酸ガスの排出がカットでき,地球温暖化問題に最終的な解決をもたらすことができると,主張している.
  私も,このシナリオにより大幅な問題の解決が図られ得ることに,同意する.
  しかし何度も申し上げてきたように,太陽光など自然エネルギーの獲得は自然生態系の保全及び食糧の確保と土地利用上ぶつかり合うので,上記シナリオだけでは地球環境問題に最終的解決をもたらさないことを指摘したい.原子力エネルギーの利用,植物工場による食糧の面積当り生産性の増大,あるいは海(や砂漠)を耕すことが,この衝突を緩和するために必要とされている.
  本書によれば,日本の住宅・建物の屋根や未利用地のすべてに太陽電池を設置すると,8兆キロワットアワーの発電ができ,これは日本で必要な発電量を満たすのに十分な値であるとしている.問題は,この未利用地は実は自然生態系であり,あるいは食糧自給率を向上させるための農地予備軍であることである.ここに大きな衝突がある.
  本書は,広大な面積に太陽光パネルを敷き詰めることは,景観も含めて,周辺環境に悪影響を及ぼさないとしているが,本当にそうだろうか.
また,これからの都市はコンパクトシティーになり,ほとんどのオフィスや多数の住宅は中高層のビルに入ることとなるが,そこには太陽光電池パネルの設置が考えられないことである.
   本書は,世界的に見れば太陽光電池パネルの設置面積は陸地の1.5%でいいので,例えば遠方の砂漠にパネルを設置し,超電導送電すればよいとも指摘している(ジェネシス計画).しかし本書も認めているように,大陸間を何千キロメートルにもわたって海底に超電導ケーブルを通すことは極めて難しい.
   原子力エネルギーの利用はやはり必要とされるのである.自然エネルギーと原子力は互いに足を引っ張り合うことなく,共に進めていくべきではないだろうか.
   本書では電気自動車の航続距離についてはまったく触れていない.どうして当面プラグイン・ハイブリッド車が電気自動車よりも推進されているのか,さらに学習する必要がある.
   水素製鉄は机上の空論で可能だと言っているだけのようである.本書が認めているように水素と酸化鉄の反応は吸熱反応であるとすれば,水素製鉄の見通しは暗いのかもしれない.むしろ鋼材のリユースを進め,炭素繊維などで鉄を代替することも検討すべきではないか.
   本書では,こうした4つの技術がなかなか進展しないのは,これらが破壊的イノベーションであるため,既存秩序に受け入れられないからだとしている.しかし,これらがなかなか進展しないのは,上に示したように根本的な問題を抱えており,無理があるためではないだろうか.
   本書の他の問題点は,技術開発による省エネルギーの可能性に触れていないことである.例えば,超効率ヒートポンプによる熱供給,省エネ型IT,LEDや有機ELなど高効率照明,プラズマ利用の高効率ガラス溶融,住宅やビルの高断熱・遮熱化,地域レベルのEMSなどには大きな可能性がある.石炭火力や製鉄所で炭酸ガス貯留を行うことも千年は持続可能であり,核融合までの繋ぎとして有望である.
   技術開発などしなくても,単純に歩くことや自転車の利用を図ること,あるいは公共交通機関を利用することも炭酸ガス削減に有効だろう.ただ我慢することも,環境倫理からして,今後ますます必要となろう.人間の欲望が無限発散しては困るのである.
   このように多くの問題点はあるが,本書は温暖化対策の一つの方法を明確に提示した力作である.値段も1,800円と手頃なので,一読に値すると考える.
水谷潤太郎
日本上下水道設計株式会社
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