書評: 『地球環境を壊さないで食糧問題を解決する』
      新村 正純  著    鞄本食糧新聞社
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  本書は,以下に示す12項目の提言のうち半分だけでも達成できれば,標題を達成できると主張している.本書は本年7月に発行されている.著者は味の素樺央研究所に属しておられた方である.
  実は,私は現在LCA学会食品研究会に所属しており,当会には味の素樺央研究所の方が多く参加されている.この研究会で昨年,私の論文「持続可能な地域社会の物的構成−フォローアップ」について紹介しており,標題の解決には原子力エネルギーや植物工場が必要だと述べている.あるいは著者にも何らかの刺激を与えたのかもしれない?
12項目は以下のとおりである.

1. 省エネルギー. 小宮山宏・東大総長の「ビジョン2050」を参考に,2050年までにエネルギー効率を3倍にする.
2. 火力発電を原子力発電に転換する. この点では小宮山氏と見解を若干異にするが,著者は原子力を必要であるとしている.柏崎刈羽原発でもマスコミや経産省は東電など叩いてばかりいるが,むしろ東電をサポートすべきだとしている.
3. 自然エネルギー. 立地の制約があり多くは望めないが,局所的には有効としている.
しかしバイオ燃料は食糧との競合問題がある.
4. 化石燃料の新たな発掘を禁止する.
5. 二酸化炭素の封じ込め. 炭酸ガスの回収・貯留(CCS)だけでなく,鉄を海に散布し植物プランクトンを増やすことも提唱.
6. 老齢・成熟人工林の伐採.
7. 木造住宅と木造家具をつくる.
8. 世界中に植林する.
9. 日本の休耕地に穀物栽培工場と森林をつくる.
10. 遺伝子組み換え技術を穀物栽培工場に導入する.
11. クジラを食べる. クジラは人間より多くの魚を食べている.これを捕獲して食用にすると,クジラ自体だけでなく,その餌分のサケ・サンマ・イワシ・スケトウダラなども人間用に回せる.さらに,南極のオキアミもマグロやカツオの餌とできるので,これらの魚種も増加し,人間の食用となる.
12. 養殖漁業. その飼料は穀物栽培工場からの穀物,大規模養殖した昆虫,バイオマスを原料とするSCP(微生物菌体蛋白質)を用いる.

  標記に掲げる問題に対し,最も包括的に対応策を提示されたものであり,感服した.特に原子力に対する対応など,社会で本当に苦労している人に対し支援すべきであるとしており,教えられる所が多い.
  若干の意見を述べると,日本では何故こうした食糧問題解決策が実行できないの
か,隘路を打開する政策面でさらに突っ込んだ見解が欲しかった.確かに農林水産行政に対する批判はあり,企業による解決を模索しているようであるが,農業ではろくな賃金を得られないのでジリ貧だという現状を打破できるものではないようだ.
  私は,この問題の根幹は,外国の農業が蛸部屋的な労働環境で低賃金労働者を働かせていることにあると考えている.これとまともに競争はできないのであり,穀物は高関税で保護し,企業は野菜・果樹・花卉など高付加価値だが食糧安全保障には関係無いものばかり目指すことになってしまう.
  今月発表する拙論文「持続可能な地域社会の物的構成−2008年秋バージョン」ではこの問題に対処し,バイオテクノロジーと穀物&豆類栽培植物工場を組み合わせた先端的な農場を,国営農場として各市町村に設けることを提案している.特に安定した職場のない地方に設置する.事業は公設民営で行い,栽培作物と方法は国が決め,民間企業はその指導の下で作業を行う.報酬は当該地方の給与水準を基に定め,作物は実勢価格で販売する.差額は国が補填するが,傾向的に低減を図るよう監視する.これは「食糧安全保障」軍とも言えるものであり,食糧供給が危機に瀕した際に速やかに拡大・展開して不足する生産を補うようにする.ただし平常時には一定の生産レベルに止め,外国の安い農作物を輸入できるメリットを享受する.
  もう一つ意見を述べると,将来は著者の言うように植物工場で穀物などを低廉に生産できるようになるのかもしれないが,現状ではエネルギー費が嵩んでかなり割高であり,これがこうした技術の普及を妨げている.この省エネを図る必要があるが,著者はまったく考察していない.私は上記論文で,空気膜二重被覆とヒートポンプで空調について60〜80%の省エネが達成できることを指摘している.ただし,人工照明についてはLEDでもまだ不十分であり,多段式の植物工場の実用化は遠い将来であろう.
  最後に,クジラ・マグロ・サケなどの食物階級の上位の高級魚ばかりに対応策がシフトしているようであるが,環境教育の観点からは,もう少し下位のもので満足するよう訴えるべきかもしれない.著者も昆虫食について触れているが,南極のオキアミやミドリムシなどをおいしく食べる工夫もいるのではないか.またIPPCのパチャウリ氏を見習って,菜食主義者になることも選択肢かもしれない.ただし菜食主義が本当に省エネルギーなのか,慎重な検討が必要ではあるが.
  本書は値段も1,500円と手頃であるし,内容もあるので,一読に値すると考える.
水谷潤太郎
日本上下水道設計株式会社
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