書評: 『予想どおりに不合理(Predictably Irrational)』
      ダン・アリエリー著,熊谷淳子訳,早川書房刊
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 本書は行動経済学の啓蒙書である.行動経済学とは以下のテーゼをもつものである.
「ふつうの経済学は,わたしたちが合理的であると考える.つまり,決断に役立つ情報をすべて知っていて,目の前のさまざまな選択肢の価値を計算することができ,それぞれの選択による結果を何にも邪魔されずに評価できると想定している.……
 しかし,わたしたちがくだす決断は,従来の経済理論が仮定するほど合理的ではないどころか,はるかに不合理だ.といっても,わたしたちの不合理な行動はでたらめでも無分別でもない.規則正しくて予想することもできる.脳の基本的な配線のせいで,だれもが同じような失敗を何度も繰り返してしまう.だとすれば,ふつうの経済学を修正し,未検証の心理学という状態から抜けだすのが賢明ではないだろうか.
 経済学は,人がどのように行動すべきかではなく,実際にどのように行動するかにもとづいているほうがはるかに理にかなっているのではないだろうか.この素朴な考えが行動経済学の基礎になっている.……」
 この新しい学問は環境経済学に大きな(深刻な?)影響を与えるのではないかと思われる.例えば行動経済学者は,人々が身近な環境から余計な影響を受けやすく(文脈効果という),関係のない感情や浅はかな考えなどさまざまな形の不合理性にも影響されやすいと考える.「雰囲気のいいカフェのコーヒーにはファストフード店のコーヒーより高いお金を払
っていないだろうか?また,上等の靴下が必要だったのに,一足分おまけされていた安物の靴下を買ってしまったことは?」だから,支払い意思額(Willingness to Pay)など質問の仕方でどうでも誘導できそうだ.この方面の環境経済学の論文などは全て紙屑なのではないだろうか?
 また,環境倫理学を始めとして,倫理学にも大きな影響を与えそうだ.人は,誰も見ていないとコーラや引換券などはかってに持って行ってしまうものの,同額の現金でははるかに持って行くことが少ないという実験結果を示されると,ふだんは正直で金を盗みそうにない一級建築士が,平気で耐震偽装をするのも,むべなるかなという気もする.
 本書では,専門職の倫理規定の効能についても理論的基礎を与えている.公認会計士に倫理規定や十戒を頻繁に思い起こさせることは,エンロンなどの不祥事を防ぐ効果があるとしている.
 本書によれば,ふつうの経済学の視点では,アメリカ人が退職後に備えて十分な蓄えをしていないのはなぜかという問は無意味だ.人生のどんなことについても,情報にもとづいた正しい決断をするのだから,蓄えようと思っている金額をしっかり蓄えているはずだ.しかし,人が合理的であるとは仮定しない行動経済学の視点に立つと,わたしたちが十分な蓄えをしていないのも,まったく当然のこととなる.これは,現下の政局を揺るがす消費税の増税論議に大きな一石を投じるものかもしれない.中川さんや塩崎さんなど消費税増税への反対論者の言うことは,ふつうの経済学の立場に立脚してように見える.一方,与謝野さんや麻生さんは行動経済学のようだ.まー,私はやはり非合理な人間なので,行動経済学の方がフィットする.
 本書は1,800円と値段も手頃だし,内容もあり,なにより面白い本なので,一読に値すると思う.
水谷潤太郎
日本上下水道設計株式会社
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