書評: 『脳神経倫理学の展望』
             信原幸弘・原塑・編著、勁草書房発行
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 脳科学が、人文・社会科学の分野で今後大きな影響を与えるものであることは、前回までの書評でも度々触れてきたところである。特に環境監査研究会では、経済学や倫理学分野におけるこうした影響について、普段に配意する必要があると考える。
 本書は、編者の一人である原塑氏がドイツ留学から脳神経倫理学の知見を携えて帰国し、東京大学のCOEプログラム「共生の哲学」に参加されて立ち上げたUTCP神経倫理学研究班の成果を成書としたものである。新規学問の種は外国から持ってくるという、遣唐使以来の伝統に沿ったもので、まーやむを得ないとも言えよう。
 本書によれば、脳神経倫理学は、2002年5月にサンフランシスコで国際会議「脳神経倫理学—領域のマッピング」が開催され、総会議長のウィリアム・サファイアが脳神経倫理学の定義と課題を明示して発足した、まだ産声をあげたばかりの学問であるとされている。これから参入しても、それなりに伸していく余地のある分野だと言えよう。
 本書の目次は次のとおりであり、極めて広範な分野をカバーしている。
Ⅰ.脳神経倫理学とは何か:「応用倫理学」とモンスターの哲学、脳神経倫理学の展開、歴史に見る脳神経科学の倫理問題--骨相学・精神外科・そして現代。
Ⅱ.脳神経科学の技術的応用をめぐる倫理問題:「究極のプライバシー」が脅かされる!?--マインド・リーディング技術とプライバシー問題、責任の有無は脳でわかるか—精神鑑定から脳鑑定へ、メディア暴力と人間の自律性、薬で頭をよくする社会--スマートドラッグにみる自由と公平性・そして人間性、記憶の消去と人格の同一性の危機。
Ⅲ.人間観への深刻な影響:脳神経科学からの自由意志論—リベットの実験から、脳神経科学からみた刑罰、道徳的判断と感情との関係—fMRI実験研究の知見より、神経神学は神を救いえるか。
 上記のすべてを概括して述べるのは困難であるが、私が特に興味深く読んだのは、蟹池陽一氏の「道徳的判断と感情との関係—fMRI実験研究の知見より」であるので、そのまとめの冒頭を下記に記したい。
 「道徳的判断は、報酬と罰についての脳
の自動的反応による価値賦与を反映し、報酬と罰とにより誘発される感情その他の心的状態を伴うと言ってよいと思われる。だが、この主張は、道徳的判断が感情により引き起こされる又は感情により構成されるという主張を必ずしも支持するわけではない。」
 環境監査や裁判では、道徳的判断を積み重ねるのであるが、そのプロセスにおける隠された感情(時にはかなり大っぴらに表示されている)の意味についても、今後は慎重な検討が必要とされるかもしれない。
 本書は3,000円とやや割高であるが、14名もの著者が寄稿していることを考えると、この分野でのエポックメーキングともなる書籍だと思われる。特に法律関係の方は一読すべきだと考える。
水谷潤太郎
日本上下水道設計株式会社
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